概要
水俣病とは、熊本県水俣市の八代海沿岸地域や、新潟県鹿瀬町(阿賀町)の阿賀野川沿岸で発生した環境汚染による公害病です。
戦後から高度経済成長期にかけて急速に拡大した重化学工業の環境への配慮が欠けた生産活動によって引き起こされたもので、熊本県では1956年(昭和31年)に、新潟県では1965年(昭和40年)に公式発表されました。
新潟県で発生した水俣病は第二水俣病(新潟水俣病)と呼び分けられることもあります。
水俣病の原因は、アセトアルデヒドと呼ばれる物質を生産するときに発生するメチル水銀です。
工場排水に含まれていたメチル水銀に汚染された海産物を人間が食べることで、手足のしびれ、言語障害などのさまざまな神経系症状を引き起こしました。
熊本県では、2,265人が水俣病と認められています。しかし、実際には水俣病と認められていなくても、1万5千人以上が水俣病による被害を受けていると考えられています。
水俣病は高度経済成長に伴って発生した、人類史上類を見ない深刻な公害として知られており、日本における公害対策の契機となったともいわれています。
原因
水俣病の原因はメチル水銀と呼ばれる化学物質です。
メチル水銀はビニールの原料となるアセトアルデヒドを生産するときに発生する毒性の強い物質で、水俣病の発生地域ではメチル水銀を含む工業廃水が海や川に流されていました。
海や川に流されたメチル水銀はプランクトンや小魚のエラや体表面から取り込まれます。
また、メチル水銀に汚染されたプランクトンや小魚をより大きな魚が食べることで、体内に高濃度のメチル水銀が蓄積されていきます。
最終的に、高濃度のメチル水銀に汚染された海産物を人間が食べ続けることでその体内にメチル水銀が蓄積し、水俣病を引き起こしました(食物連鎖による生物濃縮)。
症状
水俣病には、メチル水銀に汚染された海産物などを食べることで発症する小児・成人水俣病と、母親が妊娠中にメチル水銀を摂取したことで胎児に発症する胎児性水俣病があります。
ただし、水俣病の症状は摂取した水銀の量や、その人の水銀に対する耐性、体力の違いのほか、破壊された神経細胞の部位などによって現れ方が異なるといわれており、同じ食生活を送る家族内でも人によって症状が異なることが知られています。
小児・成人水俣病
脳細胞などの神経細胞が障害されることで、次のような神経系症状が現れます。
感覚障害(手足のしびれ、ふるえ、痛みを感じにくい、熱さや冷たさを感じにくい など)
- 運動失調(歩行時のふらつき、動きがぎこちない など)
- 求心性視野狭窄(目が見える範囲が狭くなる)
- 聴力障害(相手の声がよく聞こえない)
- 言語障害(言葉が出てこない)
- 嗅覚障害(味やにおいが分からない)
- 精神症状(認知機能や情動に関する症状、性格の変化 など)
- 頭痛
- 疲れやすくなる
胎児性水俣病
母親が妊娠中にメチル水銀を摂取すると、メチル水銀がへその緒を通じて胎児の体内に入り、次のような症状が現れます。
- 首がすわらない
- 歩行時のふらつき
- よだれ
- けいれん
検査・診断
水俣病は『公害健康被害の補償等に関する法律(公健法)』で救済対象となっており、この法律に準じて認定基準が定められています。
一般的にはメチル水銀への曝露歴、さらに四肢末端の感覚障害と運動失調、平衡機能障害、求心性視野狭窄、歩行障害、構音障害、精神障害などの水俣病にみられる症状のいくつかが認められる場合に水俣病と判断される場合があります。
ただし、水俣病の症状の一つひとつは幅広い病気で認められる症状であるため、高度な知識と豊富な経験をもった専門家によって総合的に検討され、場合によってはメチル水銀への曝露が明らかでなくても水俣病と判断される場合があります。
治療
水俣病では、メチル水銀により脳細胞などの神経細胞が破壊されており、一度破壊された神経細胞を再生する治療は現時点では存在しません。
そのため、症状を和らげる薬物による緩和療法、体の機能回復および機能維持を目的とする理学療法、作業療法が行われています。
「水俣病」を登録すると、新着の情報をお知らせします