ぶんべんごいじょうしゅっけつ

分娩後異常出血

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概要

分娩後異常出血とは、出産後から出産後12週までの間に、標準より多い出血がある状態です。命に関わるほどの大量出血になる危険性もあり、適切かつ速やかな対応が求められます。

原因としては、出産後に子宮が正常に収縮できずに止血されないこと(子宮弛緩、弛緩出血)や、胎児が産道を通るときに子宮頸部(けいぶ)や腟に傷が入ること(産道裂傷)、子宮に胎盤が残った状態となること(胎盤遺残)などがあります。

分娩後異常出血と判断される目安は、経腟分娩では500mL、帝王切開で1,000mLの出血量とされています。しかし、出血量の正確な把握は難しく、異常出血を感知するためには、血圧や脈拍などのバイタルサインを注意深く確認することが極めて重要です。

産後の異常出血は事前に予測が困難な場合が多いです。1次医療機関*で分娩後異常出血が発生した場合、総合病院や大学病院などの専門的な設備を持つ医療機関(高次医療機関)への患者の搬送が行われます。この搬送を決断するタイミングとその所要時間が、患者の予後を左右する重要な要素となります。また、妊婦健診などで分娩後異常出血を引き起こす可能性のあるリスク因子が事前に見つかっている場合は、ハイリスク分娩の対応が可能な施設の推奨や、輸液に備えた血管確保、バイタルサインのモニタリングといった出産前の予防的措置がとられます。治療としては、輸液、輸血・止血薬の投与などが行われます。また、出血の原因に応じた治療として、たとえば子宮弛緩が原因の場合には、子宮収縮薬の投与や子宮双手圧迫法、子宮腔内タンポナーデなどが行われます。これらを行っても出血が続く場合には、子宮動脈塞栓術(しきゅうどうみゃくそくせんじゅつ)や手術による止血が選択されることもあります。

*1次医療機関:地域病院やクリニックなど軽度のけがや病気の治療に対応する医療機関。

原因

分娩後異常出血の主な原因としては、以下のような病気や状態が挙げられます。

 子宮弛緩、弛緩出血、子宮復古不全

出産後、子宮の筋肉が十分に収縮せず、止血が不十分となる状態です。通常、妊娠中は子宮から胎盤を通じて胎児に栄養が送られています。出産時に胎盤がはがれると、子宮が強く収縮することによって出血が止まりますが、この収縮が不十分な場合、持続的な出血につながります。

産道裂傷

出産時に胎児が産道を通過する際、子宮頸部、腟、外陰部など生じる傷(裂傷)のことです。傷の大きさや深さにより出血の程度は異なります。

胎盤遺残、癒着胎盤

出産時に胎盤が正常にはがれない、あるいは一部が子宮内に残ることで、その剥離(はくり)面から出血が持続することがあります。特に、胎盤の一部が子宮の筋肉の内部に入り込んでしまう癒着胎盤の場合、無理に胎盤をはがすことで子宮筋が断裂し止血が困難になる場合があります。

血液凝固異常

血小板減少症やフォン・ヴィレブランド病などの血液凝固異常がある場合、分娩後の大量出血のリスクが高くなります。また、血友病の保因者(2本のX染色体の一方に血友病の原因となる遺伝子変異をもっている女性)の中には、大量出血のリスクが高く、輸血が必要となる方がいることが知られており、分娩時には特別な注意が必要とされています。

症状

分娩後異常出血を発症すると、動悸、低血圧による悪心・嘔吐、焦燥感、悪寒、意識レベルの低下などの症状が現れます。大量出血が続く場合には、全身へ血液が行き渡らなくなり、出血性ショックという危険な状態に陥る場合があります。

また、出産から24時間後から12週間までに発症する後期分娩後異常出血の場合、大量出血により血圧や心拍数の低下をきたし、救急搬送が必要となるケースもあります。このような場合、発熱や子宮の圧痛を伴うこともあります。

検査・診断

出産時の異常出血が疑われる場合、速やかに初期対応を開始します。まず、輸液のための血管確保、酸素投与、母体モニターの装着を行い、全身状態を管理します。母体モニターを用いて、バイタルサインの変動を継続的に観察しながら、出血量の評価を行います。

一般的に、正常分娩での出血量は約500mLとされています。分娩後異常出血と判断される目安は、経腟分娩では500mL、帝王切開で1,000mLの出血量とされています。しかし、実際の臨床現場では出血量を正確に把握することが困難なため、異常出血の早期発見には、バイタルサインの確認が重要となります。

また、後期分娩後異常出血の診断には、超音波検査やCTが有用とされています。

治療

分娩後異常出血と判断された場合、直ちに包括的な治療が開始されます。まず、医師が両手を使って子宮を圧迫する子宮双手圧迫法*、オキシトシンやエルゴメトリンなどの子宮収縮薬やトラネキサム酸の投与を行います。

さらに、出血の原因を調べ、それに応じた治療を行います。たとえば、産道裂傷による出血の場合は裂傷部位の圧迫や縫合を行い、胎盤遺残が考えられる場合は子宮内に手を入れて胎盤を剥離する方法(用手剥離法)などが検討されます。弛緩出血の場合には、子宮内にバルーンを入れて出血部位や血管を圧迫することで止血する子宮腔内タンポナーデという処置が行われます。この子宮腔内タンポナーデでは子宮収縮も惹起されます。これらの対応を続けても出血が止まらない場合には、命に関わる危険な出血(産科危機的出血)と判断し、輸血を開始します。

*子宮双手圧迫法:片手を腟内に、もう片方の手を腹部から入れ、子宮を挟み込むように圧迫して止血を行う治療法。

産科危機的出血の対応

上記の保存的治療で出血をコントロールできず、産科危機的出血となった場合には、以下の方法が行われます。

子宮腔内タンポナーデでも止血が難しい場合は、子宮動脈と呼ばれる血管にカテーテルを入れ、血管を閉塞させる物質を注入して血管を塞ぐ子宮動脈塞栓術を実施します。帝王切開による出血の場合には、子宮全体または出血している部位を圧迫するように糸をかけて止血する方法(子宮圧迫縫合術)や、血流を抑えるために動脈を糸で締め付ける方法(動脈結紮)による手術が行われます。

これらの方法では子宮の温存が可能ですが、止血が困難な場合や大量出血により生命の危険が切迫している場合には、最終的な選択肢として子宮全摘出が検討されます。

予防

分娩後異常出血のリスクが高いと判断される妊婦に対しては、さまざまな予防的措置がとられます。具体的には、ハイリスク分娩に対応可能な施設での分娩を推奨、緊急時の輸液に備えた血管確保、出産前の自己血採取・保管(血液をあらかじめ採取し保管すること)、血液型や不規則抗体*の確認、同種血の準備などの予防策が考慮されます。

分娩後異常出血のリスクが高いとされる要因としては、過去の分娩後異常出血の既往歴をはじめ、初産であること、多胎妊娠帝王切開や子宮手術の既往、子宮筋腫貧血、血液凝固異常の基礎疾患のあることなどが挙げられます。そのため、安全な分娩に向けて、妊婦は既往歴や合併症について、事前に医師に詳しく伝えておくことが重要です。

*不規則抗体:自分の血液型には本来存在しない赤血球抗原に対して体内で作られる抗体のこと。輸血や妊娠などによって産出されることがあり、胎児に貧血などの症状を起こす可能性がある。

最終更新日:
2025年05月07日
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2025/05/07
更新しました
2017/04/25
掲載しました。

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