
日本医科大学付属病院リウマチ・膠原病内科部長であり、同大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野教授の桑名正隆先生は、全身性強皮症(以下、強皮症)による肺高血圧症・間質性肺疾患の診療における第一人者として、重症の患者さんを数多く診てこられました。その中で、重症化して内臓障害が起きる前に適切な治療を受けられるケースが少ないという問題を提起されています。桑名先生に強皮症の早期診断における課題についてうかがいました。
残念ながら、日本における強皮症の診療レベルは諸外国に比べて遅れていると言わざるを得ません。そのためにがんで言えばIV期(ステージ4)、つまり進行がんの状況で私たち専門医を受診される患者さんが多くみられます。その段階で治療を始めても現実的に改善は難しく、できることは患者さんの延命とQOL(生活の質)の改善にとどまっています。
たとえば胸が苦しい、動悸(どうき)があるときには、患者さんはまず循環器内科に行くでしょう。そこですぐに専門的な診療を受けられます。しかし、強皮症の初期症状として頻度の高いレイノー現象は、発作的に指先の色が白や紫に変わり、冷たくなる症状です。冷え性は更年期にしばしば見られる症状です。強皮症患者は圧倒的に女性が多く、発症年齢は主に40代~50代と更年期の女性が多いため、多くの方々は更年期症状だろうと考えてしまいます。最初に行くことが多いのはかかりつけ医や婦人科などいわゆる更年期を扱う診療科が多く、場合によっては漢方医にかかるケースもみられます。
残念ながらそれら施設で強皮症が疑われるというケースは少なく、症状が持続するために、患者さん自身の判断やあるいは最初にかかった施設からの紹介で、少し大きな地域の病院などを受診します。そこで強皮症をはじめとした膠原病の疑いがあるという認識を持たれる方はおよそ半分ぐらいです。しかしその段階で強皮症の確定診断に至る、あるいは強皮症に対する適切な治療を受けられることはほとんどないのです。
かつて5~6年前に私たちが調査した結果では、患者さんが最終的に専門施設を受診して強皮症と診断されるまでに平均3.2年かかり、その間に3.5施設、つまり3カ所以上の医療機関の受診を要しているという状況でした。強皮症の治療を開始する適切なタイミングは、発症してから1~2年以内です。この調査結果からみると、専門施設に患者さんが来られる段階ではもう強皮症が進行してしまっているということになります。
強皮症には大きく分けて2つのタイプがあり、びまん皮膚硬化型と限局皮膚硬化型と呼ばれます。この2つは発症早期の進行のスピードが大きく異なります。びまん皮膚硬化型は発症して数カ月~1年くらいの間に急速に進み、そこから後は進行のスピードがゆっくりとなる、あるいは進行が止まります。一方、限局皮膚硬化型は最初から最後まで一貫して大きく変化することはありません。
限局皮膚硬化型では内臓機能が障害されて命に関わるところまで、通常20年近くかかります。60歳で発症した方が20年経てば80歳ですから、それを考えれば寿命に大きく影響しない例が多いといえます。これに対してびまん皮膚硬化型の場合には、最初の数ヶ月~1年以内に急速に進むため、その間にすでに内臓機能が大きく障害されてしまうケースがあります。そのため、特にびまん皮膚硬化型ほど早期発見し、早期に強力な治療を開始することが求められます。
膠原病には代表的な疾患がいくつかあります。強皮症もそのひとつですが、強皮症以外の膠原病、たとえば関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)、多発性筋炎・皮膚筋炎などはいずれも治療すると症状が改善し、「寛解」と呼ばれる、治ったと同じような状態が治療の目標とされています。症状があって具合が悪い患者さんが診断され、ステロイドをはじめとした適切な治療を受けると、多くが元気になることができるのです。膠原病を診ている医師にはそのイメージがあるため、強皮症の患者さんに対しても症状が悪くなってから治療をすればよいと誤解している場合がありますが、強皮症はいったん悪くなったら臓器移植以外の方法では元通りの機能まで良くすることができないのです。
強皮症の基礎にある線維化という病態はある意味「傷跡」のようなものであり、この傷跡を元に戻すことは臓器移植を行うか、再生医療が飛躍的に進歩しない限り不可能です。高度の症状が出てしまったら薬物療法で打つ手がありませんから、将来症状が出ることを早期に見極めて、早い段階から適切な治療を行うことが必要な病気なのです。その点が他の膠原病と大きく異なります。
日本医科大学 大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 、日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長、強皮症・筋炎先進医療センター センター長
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