虚血性心疾患は進行すると命に関わることもあるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。NTT東日本関東病院 循環器内科 部長の安東 治郎先生に、虚血性心疾患が疑われる際に行われる検査や治療のポイントについて、病院の特色も含めて詳しくお話を伺いました。
虚血性心疾患とは、心筋に酸素や栄養が行き渡らなくなり、胸の痛みや圧迫感などを生じる病気の総称です。疑われる症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
まずは問診で症状が現れるタイミングや普段の健康状態について詳しく話を聞き、虚血性心疾患の中でもどの病気が疑われるかをある程度絞り込みます。就寝時や起床時に胸の痛みや締め付けなどの症状があれば冠攣縮性狭心症*を、体を動かしたときなどに胸に苦しさや痛みがあり、少し休むと楽になる場合は労作性狭心症**の可能性があります。ほかにも動脈硬化を起こしやすい病気(高血圧、脂質異常、糖尿病)、や喫煙歴についても患者さんの状況を伺います。
*冠攣縮性狭心症:血管のけいれん(攣縮)により一時的に血管の内側が狭くなり心筋への血流が低下することよって起こる狭心症。
**労作性狭心症:動脈硬化によって生じたプラーク(粥腫:じゅくしゅ)が血管を狭めて心筋への血流を低下させることにより起こる狭心症。
問診と併せて血液検査や尿検査を行い、コレステロールや中性脂肪、血糖などの値に異常がないかを調べます。中でも、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)や糖尿病の指標となるHbA1cの値が重要です。また心電図検査や心臓の超音波検査を行い、不整脈の有無や心臓の動きを確認します。血管が非常に狭くなっている場合は心臓の動きが悪くなっていることもあり、この検査で異常が発見されます。
上記の検査により心臓の血管に動脈硬化が起こっている可能性がある(虚血性心疾患の疑いが強い)となった場合は、まずは外来で冠動脈造影CT検査を行います。この検査では、心臓の血管に動脈硬化やプラークによる狭まり、動脈硬化の進行による石灰化があるかを詳細に調べることができます。
さらに、正確に診断するために入院していただいたうえで心臓カテーテル検査を行い、治療方針を決定します。
治療が必要かどうかの判断に迷う場合には、血管内の血圧を測って冠血流予備量比(FFR)を算出し、血管の狭い部分で血流量がどのくらい低下しているかを評価します。また、カテーテルによる治療を行う際には血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT)を併用し血管内の状態をより詳細に把握したうえで安全に配慮して治療を行います。
虚血性心疾患の治療には以下のような種類があり、患者さんの状態や病気の重症度に合わせて選択されます。当院では循環器内科と心臓血管外科の医師とが連携した“ハートケアチーム”で、患者さんに適した治療方針を決定しています。
当院では、虚血性心疾患と診断された患者さんに生活習慣指導と薬物療法を行います。特に喫煙習慣がある患者さんには禁煙指導を行います。
冠攣縮性狭心症の場合は血管のけいれんを抑える薬が使われます。労作性狭心症の場合は、動脈硬化進行を防ぐため、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の値を下げる薬などを使用します。血糖値が高い状態が続くと動脈硬化が悪化するため、糖尿病の患者さんは血糖値の管理を行うことも重要です。
これらの指導は薬剤師、管理栄養士、理学療法士などで構成されたチームで実施しています。
血管が狭くなり心臓への血流が低下している場合は、カテーテル治療を行って血管を広げます。冠動脈造影CT検査、血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT)の結果をもとに、どのような治療器具を使用するかを決定します。基本的なカテーテル治療は血管をバルーン(血管を内側から拡張する器具)で広げ、ステント(金属製の管)を留置する方法を用います。当院ではプラークに石灰が沈着して硬くなった病気の部分に対しても、ロータブレーター*やダイヤモンドバック**を用いたり、衝撃波血管内砕石術(IVL) ***を行ったりして対処しています。また、レーザーを当てて焼灼し、プラークを蒸散する治療法も行っています。
*ロータブレーター:ワイヤーの先に埋め込まれたダイヤモンドで血管内の石灰化を削る治療器具。
**ダイヤモンドバック:ダイヤモンドの粒子がついた非常に硬いドリルで血管内の石灰化病変を削る治療器具。
***衝撃波血管内砕石術(IVL):バルーンの中から衝撃波を発することにより、血管の周りの石灰化にクラック(ひび)を入れステントを広がりやすくする方法。
冠動脈バイパス手術は、心筋の血流不足を改善するため、胸を開いて狭まった冠動脈の先にバイパス(迂回路)をつくる手術です。 2本以上の冠動脈が狭窄している場合や、左冠動脈主幹部が狭窄している場合、冠動脈バイパス手術が必要になることがあります。心臓カテーテル検査を行い、患者さんの病気の重症度に応じて循環器内科でカテーテル治療を行うか、心臓血管外科で冠動脈バイパス手術を行うかを判断します。
当院では微小血管狭心症に対する診断と治療にも力を入れています。微小血管狭心症とは心臓の非常に細い血管(微小血管)が十分に拡張しなかったり、過度に収縮したりすることで起こる狭心症のことで、更年期前後の女性に多くみられる病気です。ここまで述べてきた虚血性心疾患は心臓の外側にある大きな血管(冠動脈)の異常によるものですが、実は冠動脈の奥深くに張り巡らされている細い血管(微小循環)に異常が起こっていることもあります。微小循環は外側に見えている血管よりもはるかにたくさんの血流を運びますが、とても細い血管であるため、通常の冠動脈造影検査では異常を発見することができません。
冠動脈造影検査をしても心臓の外側の血管には異常がなく、原因がはっきり分からないのに胸の痛みや苦しさの症状がある場合、微小血管狭心症の可能性があります。当院では心筋内の血流を測定する特殊な検査機器を使用して微小循環障害の有無を調べ、適切な薬物治療を行っています。
虚血性心疾患はまず予防が大切です。虚血性心疾患は高血圧症、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病に起因する病気であるため、日頃の食生活に気を付け、運動を心がけ、薬を忘れずに服用し、危険因子である病気をしっかりと治療することが重要です。
また、虚血性心疾患は命に関わることもある病気です。症状がある場合は早めに受診し、早期発見と早期治療につなげましょう。特に安静時や運動時に胸の痛みや苦しさなどの症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。また、今まで感じたことのない強い胸の痛みが15分近く持続する場合には心筋梗塞の可能性があります。すぐに救急医療の受診を検討してください。
NTT東日本関東病院 循環器内科 部長
安東 治郎 先生の所属医療機関
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